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性格・気質、脳・神経、遺伝子

前回はうつ病と病前性格の関連をご説明しました。うつ病と一言で言っても、最近は細分化され、それぞれに呼応した病前性格が想定されています。うつ病の治療・回復には、疾病自体もさることながら、この性格因子も念頭においた対処が必要とされます。特に慢性や難治性・治療抵抗性と言われるうつ病には性格因子の影響が少なくありません。

そこで今回は性格因子についてご説明を加えてまいりたいと思います。前回はうつ病の病前性格として、強迫性、回避性、演技性、自己愛性といったカテゴリーをご紹介しました。これはDSM‐犬鬚呂犬瓩箸靴秦犧酖診断基準によるものです。前回はご紹介しなかったクラスターAも含め、再度、列挙いたしましょう。

クラスターA:自閉的・妄想的、奇妙な言動をしやすい性格
妄想性・統合失調症質・統合失調型パーソナリティ障害

クラスターB:感情的で他者を巻き込みやすい性格
反社会性・境界性・演技性・自己愛性パーソナリティ障害

クラスターC:不安や恐怖を抱きやすい性格
回避性・強迫性・依存性パーソナリティ障害

これを一般行動における積極・消極、対人行動における接近・分離の観点から図式化すると以下のようになります(但しDSM−靴亡陲鼎ます)。



このように一つの性格分類に当てはめる類型論に対して、最近はいくつもの性格特性へ分析する特性論が提唱されています。歴史的には、Eysenck(1967)が3次元モデルとして外向性Extraversion, 神経質Neuroticism, 精神病質Psychoticismを提示しました。

外向性 Extraversion
衝動性、活動性、社交性、興奮しやすさを表します。
網様体賦活系による大脳皮質の覚醒度によります。

神経質 Neuroticism
ストレス状況による不安・抑うつ・動揺を表します。
海馬、扁桃体、視床下部といった内臓脳による自律神経系の覚醒度によります。

精神病質 Psychoticism
敵対的、被害念慮、脱抑制傾向を表します。



Gray(1987)はEysenckの理論を批判的に継承し、いわゆるBig Threeモデルを脳内システムと関連させて提唱しました。

行動活性化システム
Behavioral Activation System, BAS
報酬や罰から活性化し、目標達成のための接近行動が惹起されます。衝動性、衝動的な刺激探求性ともいえます。
中脳辺縁系のドーパミンが想定されています。

行動抑制システム
Behavioral Inhibition System, BIS
報酬や罰から活性化し、脅威に対する注意が喚起されます。不安に相当します。
脳内の中隔・海馬系が関与しているとされています。

闘争・逃走システム
Fight-Flight System, FFS
無条件な罰刺激によりする活性化し、防御的な攻撃、もしくは逃避的な行動が起こります。
扁桃体と中心灰白質が関係しています。

Cloninger(1993)はGreyの気質理論を発展し、独自の気質と性格の理論を包括的に構築しました。Cloningerによると、先天的な気質と後天的な性格は相互に影響しながら発達します。この「気質」とは刺激に対する自動的な情動反応のことで、大脳辺縁系により調整され、遺伝的に規定されています。具体的な気質として以下の4つが挙げられます。

新奇性追求 Novelty Seeking
新奇の刺激に対する探索、衝動的な決定、浪費、気分の変動、能動的な葛藤の回避など、行動の活性と開始に関する遺伝的な傾向です。
GreyのBASに似た行動のシステムです。
神経伝達物質としてドーパミンが想定されていて、ドーパミンD4受容体との関連が指摘されています。

損害回避 Harm Avoidance
未来の問題に対する不安や、未知の人物に対する恐怖のような受動的な行動の回避など、行動の抑制と中止に関する遺伝的な傾向です。
GreyのBISに似た行動のシステムです。
神経伝達物質としてセロトニンが想定されていて、セロトニン・トランスポーター5−HTTの遺伝子多型との関連が指摘されています。

報酬依存 Reward Dependence
社会的な愛着や他者の賞賛への依存のような、行動の維持と持続に関する遺伝的な傾向です。
神経伝達物質としてノルアドレナリンが想定されていますが、関連遺伝子は未だ発見されていません。

固執 Persistence
報酬依存の下位尺度から独立した因子で、忍耐強く一つの行動を行うような、行動の固着に関する遺伝的な傾向です。
特定の神経伝達物質や遺伝子は想定・発見されていません。



Cloningerは更に上記のような気質の上位概念として性格次元も想定しました。この「性格」とは自己について洞察・学習することにより発達するもので、自己や社会の有効性に影響を与えるものと定義されています。以下の3つが挙げられます。

自己志向 Self Directedness
自己決定や意思の力Will power、もしくは選択に対して行動を調整する能力とされています。責任感、目標設定・遂行、動機付けといった能力に関わります。低い自己志向がパーソナリティ障害に共通する因子であると考えられています。

協調 Cooperativeness
他者と同一化し、受容する際の個人差を説明します。寛容さ、共感、同情など。自己志向と同様に、低い協調はパーソナリティ障害に共通する因子であると考えられています。

自己超越 Self Transcendence
宇宙に存在するすべてのものがひとつの全体の一部であるとする「統一意識」の状態を含みます。統一意識では自己と他者とを区別する重要性がないことから、個人的自己というものはありません。人は単に進化する宇宙の統合的部分であると意識するにすぎません。特に老人においては、瞑想したり祈ったりすることで人生の満足感や個人の有効性を高めることができます。その人の適応状態と人生の満足度を知るために重要で、特に35歳以上の成人に対して示唆されています。

以上、前回の病前性格から発展して、性格因子についてご説明いたしました。脳・神経について言及したところが少なくなく、解剖学や生化学の基礎知識も必要とされるため、抵抗を覚えられた方も少なくないのではと恐縮いたします。しかし、病気や性格に限らず、あらゆる精神活動は脳・神経の機能ですから、心や脳の問題についてご説明を深める上では避けられないところです。更に論を進めると、遺伝子やDNAについてまで言及することになりますが、今回はこの程度に留めておきます。



一方で、環境因子についても十分な考慮をしなければなりません。生活環境はもとより、周囲の方々とのご関係なども影響いたします。幼少期からの親子、兄弟・姉妹との関係にはじまり、成人後も友人・恋人・夫婦関係など性格形成に作用します。DSMのクラスター分類やCloningerの説明した性格次元がまさに相当しうるもので、他者との関係を通じて、協調や共感、そして自己実現・自己超越と至るのです。この概念はむしろMaslowによる人間性心理学・自己実現理論として有名です。詳しくはまたの機会にご説明いたします。いずれにしても銀座泰明クリニックでは現在お悩みの病気にとどまらず、病前性格・人生観などにまで及び、患者様とご一緒に考えてまいりたいと思っておりますので、今後ともどうぞ宜しくお願い致します。

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2007.07.22 Sunday 17:26 | comments(0) | trackbacks(1) | 

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